愛を込めて

私はあまり本を読まない。

活字が苦手な訳ではないのだが、意識して読み進めないとどうにも本棚の隅に眠らせがちになる。

 

そんな私が、我を忘れて夢中で読了してしまう作家さんがいる。

sakidori.co

村田沙耶香さんである。

癖になるのが、本当に人間が考えた?みたいなハチャメチャな展開。とんでもない描写が度々出てくるので、浴槽に浸かりながら読んでいる時なんかは「どういうこと?!?!?」とひとりで叫んだりする。楽しい。

 

そして、現実世界を生きる上で感じる気持ち悪さというか、「人」とか「女」ってこうあるべきだよね~みたいな呪いから感じるモヤを、色んな角度からうまく言語化してくれているところが好き。

頭の霧を言葉として上手く昇華できる感覚があるので、悩んだり気分が冴えない時はおキモチへの処方箋として読むことがある。

 

つい先日もモヤる場面に出くわしたので、雑然とした頭の中を整えたいなと、書店で平置きにされている本をなんとなく眺めていた。

そんな折にたまたま見つけた本が「地球星人」という小説である。

(※この先、ネタバレを含んでいるかもしれないのでご注意…)

 

ゆっくり読もうと思っていたのだが、あまりの面白さに1日で読み切ってしまった。

 

ストーリーは、主人公の女の子が性的搾取や歪な家族との暮らしを通じて、自身を魔法少女や宇宙人だと思い込むところから始まる。

この世界は【地球星人】が作りだした人間を作るための”工場”で、人間はその工場で役に立つための"道具"として役割を果たさなければならない。主人公は「人間社会に”洗脳”されていない」ため、社会が求めるものになれない自分に苦しみながら、とんでもない結末を迎える…というもの。(胸糞悪い描写も多い)

ここは巣の羅列であり、人間を作る工場でもある。私はこの街で、二種類の意味で道具だ。
一つは、お勉強を頑張って、働く道具になること。
一つは、女の子を頑張って、この街のための生殖器になること。

村田沙耶香 『地球星人』 | 新潮社

 

私の年齢的に、主人公と同じような結婚だ子供だ社会貢献だとかいう様々な圧力を受ける機会が増えてきたので、バッチリのタイミングで読めて良かった。

 

「地球星人」では主人公が持つ”宇宙人としての目”を通して、【地球星人】の生態が俯瞰的に語られる。なので、現実世界で当たり前として刷り込まれてきたことも、角度を変えるとこんなに違和感があるのか~と改めて気付かされた。

 

本当に怖いのは、世界に喋らされている言葉を、自分の言葉だと思ってしまうことだ。

こちらは作中に出てくる好きな台詞。

社会通念として刷り込まれた価値観をあたかも自分のものみたいに扱ってることってたまにある。

私は作中の主人公みたく宇宙人になって完全に振り切ることは難しいけど、個としての私が何を感じてどう考えるかは私自身の言葉を使いたいし、その感情は私の一部として大切にしたいと思うなどした。

 

あらすじだけでややお腹いっぱいな感じはあるが、中身はさらに壮絶である。

私と同じような圧力を受けて疲弊している方や、未読で気になっている方はぜひ読んでほしい。

 

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次回の読書候補としては、同じく村田さん著書の「信仰」が気になっている。

book.asahi.com

 ちょうどその頃、「“現実”に勧誘すること」について考えていたんです。たとえば、なにかにとてつもなくハマってる友達に対して、「今染まっちゃってるだけでしょ」という扱いをしたとき、その人にとって大事にしていることを軽視して、自分の考える現実に勧誘している感覚があって。それって暴力性があるっていうか、そういう自分に違和感や恐ろしさを覚えて、その正体を知りたいと思いました。

以前、スピリチュアルな物事を好む相手に、味気ない言動を取ってしまったことがあったのだが、こちらのインタビューを読んで、これもまた「自分が考える”現実”への勧誘」だったんだな~と自省した。

相手が大切にしているものを足蹴にしてまで私が叶えたいことって…。とまたモヤが発生しているので、近々こちらの作品も読みたい。

 

今後改めていきたいのは、自我が先行して、自分の中にある言葉を脊髄反射的に答えがちになること。もう少し配慮した言葉で再構築してマイルドに伝えられるようになりたいなと思う昨今。

もっとも、相手が欲しがっている言葉だけを並べるのは、相手に対しても失礼だしそれは真っ当な人間関係ではないと思うので、何事もバランスが肝心ですが…。

 

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社会で生きいくのってなかなか難しい。

だけど、こうやって自分と向き合う時間は嫌いではないな~と感じる2023年の冬。